白い悪魔の触手、生活を腐蝕する

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「由樹さん。会いたかったんですよ。私、由樹さんが逃げた時から何日も涙が止まらなかったんですから。本当ですよ。私にとって由樹さんは恋人同然だったのですから」 「旦那は」  隆広の安否を案じた。彼が無事であればまだ希望がある。 「今、私の旦那が神奈川の山の方で可愛がっているところですよ。そこにはアンジェラさんもいらっしゃいます。あ、さっき動画が送られて来たんでした。見ますか」  思考が止まった。成子の言葉の後半は殆ど意味を理解することを、脳が拒否しているようだった。だが、脳は明確に意味を理解していた。隆広が土から頭だけ出している映像が思い浮かんだ。あの優しく帰りを待ってくれた隆広が蛆に食われながら死んでいく。  嫌だあ、と叫んだ。成子は由樹に対して嫌がらせをして、錯乱させることを企んでいるのだろう。虚無人間にして自宅に連れ戻すつもりだろう。そして清江のように肉団子にされて夫に食わせるつもりなのだろう。  彩花の顔を見た。首輪を付けたまま涙を流していた。柔らかくて丸い頬の上を水玉がサラサラを落ちて行った。娘を守らなければ。本能で自分の役目を認識する。理性などなく、本能でしか行動をすることができない。 「彩花を放して」  明美に向かって吠えた。明美は下を向いた。茶色い皮膚に覆われた痩せぎすな足で立っていた。腐ったゴボウに見えた。初めて会った時は浩司からの暴力跡が残っていたが、それ以外は普通に見えた。今は中身から腐り果てたようだ。彼女の中にある自分自身を動かす動力源が破壊されているようだ。外身だけではなく、中身が崩壊している。 「明美さん、部屋で言っていたこと。由樹さんにも言ってあげたらどうでしょう」  成子の言葉を聞いて、明美は顔を上げて由樹を見た。ゴム人形みたいな顔をしていた。 「おい、このアマ」  病的に無表情な明美は今まで聞いたこともないほどの大きくて濁った声を出した。今までの自信なさげで囁くように喋っていた女と同一人物には見えなかった。
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