白い悪魔の触手、生活を腐蝕する

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「お前、よくも逃げやがったな。成子さんを置いて行くなんて恩知らずのドブ女」  何を恩と思っているのか。明美は成子の部屋で暴力を受け、ベッドで一緒に寝たりする行為をありがたい賜りモノだとでも思っているのか。すっかり心を成子に奪われていた。 「私は最初からお前のことが気に入らなかったんだ。お前は汚いことからすぐに逃げ出すような軟弱者で、男に寄りかかったまま生きるような恥知らずだということにも気付いていた」  明美が一言発するたびに細かい唾が飛ぶ。成子は満足そうに腕を組みながら明美と由樹の顔を交互に眺めていた。 「私はお前だけは許さない。男たらしの阿婆擦れが。成子さんに頼んだのです。お前を夜の街に売ったらどうかって。成子さんは喜んでくれた。私の意見を聞いて成子さんが喜んでくれた。お前は成子さんに認められたことはあるのか。ないだろう」  明美が何を言いたいのか分からなかった。隆広が死んだ現実しか考えられなかった。由樹の両膝がワナワナ震えた。ようやく三人で楽しく生活すると決めたのに。もう少しのところで間に合わなかった。これは全て自分が旦那デスノートで嘘を吐いて隆広を悪く言った過去がそもそもの原因だ。あんなことさえしなければ成子たちと出会わなかった。  自責の念にかられた。自分をいくら責めても足りない。自分を徹底的に痛めつけても現実は何も変わらない。 「まあ、明美さん、落ち着いて下さい。帰ったらきちんとお話をすれば良いじゃないですか。彩花さんにも来てもらいましょう。両親どっちもいない部屋に置いて行く訳にはいかないですからね」  成子は彩花の親である由樹に何も確認を取らずにリードを明美から受け取って彩花を車の中に押し込んだ。 「さあ、由樹さん来て下さい。彩花さんの隣に座って良いですよ。いきなりのことで心配でしょうから」  後部座席に由樹は彩花と明美に挟まれる形で座った。
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