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 ――三人で付き合わないか? 佑月(ゆづき)さえよければ。  ひととき前にそう言った口が目の前でコーヒーをすするのを、私はあっけにとられて眺めていた。彼の隣では、この場で初めて会った女があっさりとした笑みを浮かべている。  カフェのテーブルを挟んで向かいに座る雅也(まさや)は、こんな突拍子もないことを口にする人ではなかったはずだ。少なくとも付き合っていた六年間で、彼が私の想定を超えたことは一度もない。  雅也はコーヒーカップをソーサーに置いて、いまだ言葉を発しない私に眉尻を下げた。 「やっぱり、普通だめだよな、こんなのは。いくら別れたくないって言っても、普通、恋人は一人だけだもんな」  普通、普通。なんだこれ。冗談みたいだけど、冗談だとしてもまったく笑えない。 「……これって、雅也が二股かけるのを、私に認めろっていう意味なの? ふざけてる?」  抑えようとしても、語尾が震えてしまう。私の言葉に、雅也は心底驚いた顔をした。 「二股じゃあないよ。俺と、佑月と、瑠香(るか)の三人で付き合うんだ。そうだよな、瑠香?」  今の流れで隣の女――瑠香に同意を求める無神経さに腹が立つ。  あんまりな状況に、私はめまいを感じて目の前のアイスティのグラスに縋りついた。力の入らない両手でそれは、水滴に滑って持ち上げることすらできない。  こんな提案、理解不能で論外だ。それでも言い返すことができないのは、ここで拒絶してしまったら、一週間前にした雅也と私の別れ話が今度こそ成立してしまうから。ごねて、泣いて、わめいた結果がこれなのだ。
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