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あの日私が「別れるくらいなら死んでやる!」と叫んだら、情に脆い雅也は迷いはじめた。これできっと、過ごした年月が勝って私のもとに戻ってくると期待していた。
それなのに。私が求めていた結論は、こんな意味不明な優柔不断さでは、決してない。
佑月さん、と瑠香が呼ぶ。あっけらかんとした表情とは対極の、甘い香りが漂ってきそうな、心地よくくすぐるような、女の声。
「次の日曜日に三人でデートしてみませんか? 付き合うかを決めるのは、そのあとでも遅くないと思うんです」
私は瑠香の提案よりも、こころもち首をかしげた彼女が、傾けた頭のぶん雅也との距離が近づいたことに胸がかき乱されていた。
だけど、こんな距離なんか目じゃないほどに二人は触れ合った日があるという事実を思い出し、胸がさらに熱く焦げる。
彼女と別れられないのなら三人で付き合おう、ベッドの上で瑠香が雅也にそうささやいたに違いない。この女は、雅也と私の弱みにつけ込んで、優しい雅也はたぶらかされているのだ。
五つも年下の学生上がりの女に手玉に取られるなんて、情けない。
三人で付き合うだなんて言っておいて、その実、私から雅也をかすめ取る算段でもあるのだろう。
こんな女に怯えている場合じゃない。
私の雅也を盗られてなるものか。
「……わかったわ」
ぶっきらぼうな私の返事に、瑠香はにこりと笑い、雅也はほっとしたように頬を緩めた。
私はすごい仏頂面を見せているはずだ。三人で付き合うか、雅也を手放して一人になるか。そんな二択は、どちらも信じられないほどの地獄だ。
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