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「いつものデート」でよく訪れるこの辺り一帯は、小規模なファッションビルや、雑貨屋、カフェが点在している。人通りもそこまで多くはなく、ぶらつくにはちょうどいい。
雅也と私が横に並び、その少し後ろを瑠香が歩く。
雅也と腕を絡めても、雅也も瑠香もなにも言わない。少し楽しくなってきた。
――このお店入ってみよう!
――いいね。
――わあ、このブラウスかわいい!
――佑月に似合うんじゃないか。
――この帽子、雅也にいいんじゃない?
――うーん、ちょっと奇抜だなあ。
いつものように雅也とウインドウショッピングを楽しむ。別れ話なんてまるでなかったかのように、いつものデートを雅也と――
「って、なんなのこれ!?」
後ろを振り返りながら叫ぶと、瑠香は目を丸くして驚いた。
「突然どうしたんですか? もしかして、楽しくないですか」
「どーしたもこーしたも、あなたがでしょ! 今日ずっと私たちの後ろを背後霊みたいに黙って付いてきてるだけなんて、いったいどういうつもり!? 雅也に私を諦めさせるための戦いなんじゃないの、これは」
佑月、と呼ぶ雅也に勢いのまま向き直る。
「雅也も雅也でしょう!? 三人で付き合おうとかふざけたことほざいておいて、この子を放っておいてどうするのよ! ちゃんと責任持って間を取り持ったりしなさいよ!」
ふふっ、と息の漏れるような声がした。横を見ると、瑠香が口元を手で隠してうつむいている。
ほくそ笑んでいるのか、とカッとなった。
「なにがおかしいのよ!」
私の罵声に顔を上げた瑠香は、こらえきれないようにくすくすと笑っていた。
「……ああ、思った通りでした。佑月さん面白い。あそこのカフェで少しお話しませんか? 付き合うことについて、ちゃんと深く話し合いましょう」
面白い、だなんて感情を逆なでする言葉を投げておきながら、意に介さないようすで瑠香はすたすたと前を歩きだす。
隣の雅也が、私の背中をトンと押す。さあさあ行こう、佑月のお気に入りのカフェだろう。
激高している私だけが置いてきぼりを食らって、納得がいかない。とにかく話し合いで瑠香の真意を聞き出してやる。
私は華奢な背中を追って、普段使いのカフェに入った。
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