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「佑月さんは、少し勘違いしてます」  テキパキと注文を終えた瑠香は、店員が去ったあと、ひとしきり周囲を確認してから切り出した。 「勘違いって、なにについて」 「私は、雅也さんを独り占めしたいわけじゃない。三人で、恋愛関係の役割分担をしたいんです」  役割分担? 三人で付き合うという提案も意味不明だけれど、さらにわけがわからない。 「役割って……もっと直接的にわかりやすく説明して。言いくるめて雅也を奪いたいのなら、受けて立つから」 「かっこいいですね」 「バカにしてるの?」 「違いますよ。感情過多に詰め寄れるところ、憧れます」  やっぱりバカにしている。食って掛かろうとした瞬間に、お待たせしましたぁ、という間延びした店員の声が割り込んできた。  私の目の前に滑り込んできた焼きたてスフレの香ばしさが鼻をくすぐり、怒りが多少霧散する。  目の前にコーヒーを置かれた瑠香は、店員に顔を向けて「ありがとう」と言った。年若いアルバイトだろう店員は、ごゆっくりぃ、と接客態度とは思えないだらしない言葉遣いと不躾な視線を向けてから、去っていった。  雅也とよく利用するこのカフェの店員はいつも空気のような存在で、癇に障ったのは初めてだ。  イライラしてきた私を尻目に、雅也が隣から「スフレうまそうだなあ」とのんきな声をかけてくる。私はため息に苛立ちをのせて体の中から吐き出した。 「……もういいわ。それで、役割分担ってなんなの」 「恋心とセックスの分担です」 「なっ……!」  思わずあたりを見回してしまった。こんな公共の場で、とも思ったが、周囲のテーブルは小洒落た空間と人気のスフレに夢中な人間ばかりで、他人の会話を気にしてる客なんてこのカフェにはいない。
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