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「ねえ、大倉(おおくら)くんって、なんでも引き受けすぎじゃない?」  所属していたハイキングサークルで、飲み物を配り歩いていた雅也に話しかけた一言が、私たちの始まりだった。  大学のよくあるイベント系飲みサークルで、主要メンバーが計画を立てて人を集めて実行に移している。私と同い年の雅也は、そのなかで主要メンバーの使いっ走りのように、下調べや買い出し、イベント後の打ち上げの企画なんかに駆り出されているように見えた。 「ちゃんと断んないと、みんなどんどんつけあがって頼んでくるよ」  私の忠告に、雅也は少し驚いたあと、表情をふわりと明るくした。 「頼られるのは好きだからいいんだよ。でもありがとな」  そのあと雅也はぼそりと、岩井(いわい)さんって優しいんだな、と呟いた。  優しいのは雅也のほうだと、そのころからずっと私は思っている。  大学卒業を前に、“岩井さん” が “佑月” に変わり、私たちは恋人になった。  雅也は穏やかで優しく、喜怒哀楽の激しい私のすべてを認めてくれるような人だった。私は雅也が好きで、雅也も私のことが好きだった。  なにも問題がないはずだった。  ただ一つを除いては―― 「痛い痛い痛い!」  最初のころはベッドの上で、遠慮もなく私は叫んでいた。雅也はすぐに中断して、耳元で「ごめん」とささやく。  深いキスをしても、唇が体を丁寧になぞっても、そこに愛を感じても、その先の痛みを私はどうしても我慢できなかった。  何度か失敗するうちに、雅也は怖気づくようになっていった。  体を許せなくて、雅也を満足させられなくて、このまま愛想を尽かされるのではないかと私は怯えた。
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