ノーゲーム

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 香(かおる)と康文(やすふみ)は退屈そうに試合を見ていた。応援しているチームはいつも最下位で、応援していても意味がないと思い始めている。だが、勝利を信じて応援しなければ。 「負けてるなー」  康文はうんざりとしている。ここ最近、負け続きだ。毎試合、ラジオで試合経過を聞いているが、今日は実際に球場に来ている。生で見てるんだから、今日は勝ってほしい。だが、その期待とは裏腹に、ボロ負けだ。 「今日も負けたくないなー」  と、香はスマホで天気予報を見ている。何か気になる事があったんだろうか? 「どうしたの?」 「今日は7時ぐらいから雨が降るって予報なんだけど」  午後7時ぐらいから雨の予報だという。そろそろ7時だ。このまま雨になって中断して、ノーゲームになってくれないだろうか? 試合は今、4回だ。 「もう勝てないのなら、中止になってほしいな」 「そうだね」  香もそう思っていた。このままノーゲームになってやり直せたらいいのに。もう負けるのが確定しているのだから。 「応援している意味なんて、ないよ。だって負け続きだもん」  康文はもう応援するのをやめていた。こんな弱いチーム、応援しても意味がない。もう帰りたいな。もう見たくないな。 「そうだね。でも、諦めずに応援しようよ」 「うーん・・・。ノーゲームにならないかな?」  康文は早く雨が降ってほしいと願っていた。だが、まだ降りそうにない。このままでは5回が終わって、試合が成立してしまう。 「なってほしいね。だけど祈りましょ」 「そうだね。もう勝てないのなら」  いつの間にか、香も応援をやめていた。康文同様、雨が降ってほしいと願っていた。だが、それでも降らない。 「もう見てられないね」 「もうこんな負け、何日続いてるんだろう」  2人ともイライラしていた。こんなに勝てない試合が続いているのに、選手たちは悔しくないんだろうか? 監督やコーチは何を教えているんだろうか? とても気になる。 「見ていて辛いよ」 「わかるわかる」  康文は泣きそうだ。下を向いている。香はそんな康文を見て、肩を叩く。だが、こんな試合の様子を見ていると、励ましてもまた落ち込んでしまうだろう。 「もうノーゲームになってしまえ!」  と、康文は頭に何かが落ちるのを感じた。雨のようだ。やっと雨が降ってきたようだ。 「ん? 雨が降ってきた」 「本当だ! もっと降って中止になればいいのに」  2人は少し元気が出てきた。このままもっと降って、ノーゲームになればいいのに。早く審判がタイムをかけて、試合を止めてくれないだろうか? 「そうだね」  2人はスコアを見た。もう5回だ。もっと強く降って、中断しないだろうか? 「もう5回か」  康文はため息をついた。どうかここで中断して、ノーゲームになってほしいな。だんだん雨が強くなってきた。 「どうかここで中止になってほしいな」 「そうね」  康文は見ているのも辛くなった。またやられている。今日、こんなシーンを見たのはもう何度目だろう。ため息しか出ない。 「またゴロだよ」  時間が経つたびに、雨が強くなってきた。観客の中には、傘を持つ人々もいる。だが、選手たちはびしょぬれの中試合をしている。 「だいぶ降ってきたから、もうここで中止になってほしいね。ノーゲームになって、またやり直しにしてほしいね」 「うん」  結局、5回も無得点だ。2人ともいら立っている。早く何とかしてほしい。勝つ気があるのか聞きたいぐらいだ。 「また0点! もういい加減にしろよな」 「もう何度目だろう。もうやってらんないね。勝つ気があるのか聞きたいわ」  2人とも怒りが浸透していた。もう早く帰りたい。だけど応援を続けなければ。 「そうだそうだ!」 「5回が終わってしまったね。これで試合成立か」  2人はため息をついた。これでノーゲームはなくなった。この状況から見て、コールド負けしかないだろう。せっかく見に来たのに。 「ノーゲームになってほしかったのにね」  香は泣きそうだ。その様子を見ていた。康文は肩を叩く。何とか気を取り戻して、もう一度応援してほしい。 「こうなったら大逆転を期待するしかないね」 「うん」  そして見ていると、今度はホームランを打たれている。もうやる気がないんじゃないのかと思うぐらいだ。もう弱すぎて言葉にできない。趣味で野球をやっているように見えてしょうがない。 「また点を取られてるよ」 「うーん、もう見てられない」  突然、主審がタイムをかけた。雨で試合中断のようだ。できればこれを5回でやってほしかったのに。もう遅い。 「あれっ、試合が中断か」 「ここに来て中断とか、コールドゲームにしたかったからみたいだね!」  それを見て、香は怒っていた。まるでコールドゲームにしたかったようなタイミングだ。まるで審判も敵の味方になっているようにしか見えなかった。 「そうだそうだ!」  康文は願っていた。こんな天気でもいいから試合を再開してほしい。そして、大逆転劇が見たい。 「早く再開してくれ! 大逆転が見たいんじゃ!」  だが、試合が再開する事はなく、コールド負けになってしまった。またもや負けだ。何度こんなのを見なければならないんだろうか? 俺たちは勝ちが見たいから来ているのに。 「あーあ、結局コールド負けか」 「こんな終わり方になるなんて・・・」  康文は肩を落とした。2人は球場を後にした。それに続くように他の観客も帰り出す。みんな肩を落としている。 「まるで仕込まれてたみたい」  香は怒りが収まらない。どうして5回でノーゲームにしなかったのか。こんなに降っていたのに。 「受け入れようよ」 「うーん・・・」  康文は肩を叩いた。それでも僕たちは応援しなければならない。勝つことを信じて。だけど、何度こんな負けを見なければならないんだろう。
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