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「お兄さん、これ下さい。」 「はい。あ、今日はフルーツサンドもありますよ。」 「わぁ、じゃ、そっちも貰っちゃおう。もうっ、商売上手なんだから。」 「いえいえ、ご贔屓にして下さる皆さんのお陰です。」 俺は内心ビクビクしながら、王子スマイルで微笑む。頬の筋肉が凝り固まるような気さえ起こる。本当にこれでいいのか?なんて思うけれど、いつも妹に『お兄ちゃんはそのオドオドした所が無くなれば誰が見ても王子さま顔なんだから。胸張ってにっこり笑ってればいいのよ。』と口を酸っぱくするほど何度も言われている事を思い出した。 俺が今いるのは都内某所のビジネス街。 昼時になって出てくるキッチンカーの列の端っこに場所を確保して俺も同じように車を停めて店を開ける。 父親のやっているパン屋で作っているパンやサンドイッチを移動販売するこの仕事を始めてまだたったの3年だ。 それでも、当初女性社員をターゲットにしたヘルシーなサンドイッチや健康に特化した惣菜パンが功を奏し、今ではそこそこ固定客が就いていてまぁまぁな人気にはなっている。 今後はもっと男性客を呼び込むべく、ガッツリ系のサンドイッチの充実も考えたい。 一緒にドリンクも、と望まれる事も多いためホットコーヒーやさっぱりとしたアイスティーなんかは販売しているけれど、サンドイッチだけじゃなくサイドメニューとしてスープなんかも提供できれば、と野望は果てしない。 まぁ、千里の道も一歩から。今は地道に常連のお客さんの機嫌を損ねないようにニコニコと愛想笑いを浮かべて商品を渡す。 目の前の女性は俺の顔を見てほんのり顔を赤らめながら袋を受け取った。
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