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この髪色は妹にえらく好評で、外出するにも視線を集めまくるから変えてしまいたいのだが、妹の「変えたらお兄ちゃんと話すの止める」という強迫めいた言葉に直す機会を失っている。 とまぁ、高校時代の俺とは見た目随分変化していたこともあって、そんじょそこらの知り合いには見破れないだろう、と思っていたのにそれがどうだ。 有無を言わさず、間違いなんて認めないとばかりに視線の奥底で光る瞳は俺が戸部悠だと知っている、と物語っていた。 「……人違い…。」 「な、訳ないだろう。俺が悠の事間違えるわけないんだから。」 「いえ…そんな…。」 「大体、そこに書いてあるだろうが『Bakery TOBE』って。」 「あっ!。」 キッチンカーのボディにはでかでかと店名が書かれてあった。 俺はその事実を指摘されて翔琉が最初から俺だと分かって声を掛けてきたのだと気付いた。 知ってるのにあんな聞き方あるか、と思った俺は憮然とした面持ちで翔琉に応えた。 「分かってたんなら質問系で声を掛けるなよ。」 「いやぁ悠の方から気付いて欲しかったんだよ。大体何だよ『人違い』って。」 「いいだろ、別にっ。」 「良くはないだろう。俺としては故意に無視されたって事で傷付いちゃうよなぁ。」 ワザとらしく泣き真似までする翔琉にイラっとしたけれど、まるで高校時代に戻ったような軽口に俺の頬が緩んだ。 「まぁた、うそ泣きなんかして。お前何歳だよ。」 「悠と同じ歳だろ。」 「精神年齢は違うだろ。」 「酷いな~。」 クスクスと思わず笑ってしまった俺の顔をジッと凝視していた翔琉だったが、不意に後ろの方から翔琉を呼ぶ声が聞こえた。
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