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家族は大事だ。妹は俺よりも幼いし、守るべき存在なのは分かっている。
それでも、俺だって大人じゃない。
まだまだ両親に甘えていられる年齢なのに、その権利を声高々に挙げる事が出来ない。そんな事情を理解しているほどには成熟している。
どっち付かずの状態は宙ぶらりんすぎて自分で治まりがつかないモヤモヤとした感情が胸に渦巻いていた。
加えて、当時の俺は周囲の人間が向ける視線に酷く敏感になっていた。
今思えばそれは自意識過剰な妄想のようなもので。誰も他人の家庭内の事なんて気にしちゃいなかったのだと思う。
それなのに、あの頃の俺は誰も彼もが俺の家庭内事情を知っているような気になっていた。
母親が死んだのは病気の所為で、それはどうしようもない事で。
抗えない運命のようなものだったのに、母親がいない家庭というものを周囲から隠したくて堪らなかった。
今まで普通に出来ていた事が出来なくなった事を知られたくなかった。
それはチンケなプライドだったのだろう。
思い出すのも恥ずかしいが、周囲と極力関わらない事で、俺はその小さなプライドを保っていたのだ。
昼休みになると何処か人気のない場所を探して今日の昼飯を食べる。
今日は特別教室前の屋上へ向かう階段が空いていた。
先日ここは立入り禁止の通知がされたばかりで、見回りもあるからか他の生徒に敬遠されているらしかった。
俺は教師が来ても何も疚しいこともなく、寧ろ頻繁に巡回してもらえれば自分しか利用する生徒がいない場所になる、と教師の見回りを歓迎していた。
持ってきたビニール袋を開けると朝急いで突っ込んできた揚げパンが数個入っている。
形が歪で店頭に出せない商品だった事もあるが、何より昨日の残り物でもあるので油を吸った砂糖は既に形を無くしていた。
「うぇっ。」
思わず声が出る。
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