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思い起こせば翔琉という人間は常にそういうヤツだった。 不意に現れては好き勝手なことをしてまた離れていく。 人との接触の少なかった俺は勝手にドキドキして、そして勝手にイライラしつつ次第に翔琉の存在に慣れて行った。 あの最初の出会いから、翔琉はクラスでも俺に話しかけるようになった。 それまで接点のなかった俺の存在に、最初、翔琉の周囲は訝し気な視線を寄こしていたが、いつも話しかけてくるのは翔琉の方でひと言ふた言言葉を交わしてすぐに去っていく。 そんな俺をほどほどに話をするクラスメートの一員ぐらいと認定したのか周囲は一時のざわめきの後すぐに落ち着きを取り戻した。 それでも、俺の中で翔琉の存在は少しずつ大きくなっていった。わざわざ自分に話しかけてくれるクラスメートの存在は、当時の荒んでいた俺にとって大きな慰めでもあった。 ** 「なぁ、なぁ、今日はパンもってきてないのかよ。」 「また来たのかよ、翔琉。昨日も食べたじゃんか。」 「悠んちのパン超旨いから。毎日食べても飽きないんだって。」 にこやかな笑顔と一緒に催促の手が出ている。 俺は屋上へと続く階段に腰を降ろして、いつものように昼飯を食べようとしていた。 神出鬼没とはよく言ったもので、翔琉は俺がここで食事をしようとすると現れる。 普段連れている仲間も連れず一人で。 急に現れる翔琉に思わず「うわぁっ」と声が出た。 そんな俺に 「俺は化け物じゃないぞ」 と少々気分を害したような顔で言った翔琉は、戦利品とばかりに俺の持っていたコロッケパンを奪っていった。 店でも人気の惣菜パンだから余る事なんてほどんどないのに。 今日は朝から楽しみにしていたのに横から奪われるなんて最悪だ。 そんな不満が顔に出ていたのか。 翔琉は俺の顔を見るとニヤリと笑って鼻をつまんだ。 「ふがっ、にゃ、にゃっにっ。」 「はははっ。何言ってんのか、わっかんない。」
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