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「ありがとうございました。また来てくださいね」
再度にっこり。
女性も笑顔で頭を下げて去っていった。
ちょうど客が途切れたこともあって、俺は「はぁ…。」と息を吐きだした。
いつも接客は緊張する。これでいいのか?間違っていないか?と不安になるし。お客さんを不愉快にさせていないか、と怯えにも似た気持ちになる。
すると、また妹の『お兄ちゃん自信もって!』という力強い声が聞こえてきて俺は思わず背後を見渡して妹がいないか確認してしまった。もちろん、それは幻聴だったみたいで妹の姿は見えない。
俺は胃がキリキリするような痛みを覚えながら「自信なんてあるわけないだろう……」と小さく呟いた。
それでも、ぴょんとこの場から逃げ出してしまうほど責任感がないわけでもなく。いや寧ろ、俺がこの仕事を蔑ろにする事で父、俺、妹の家族三人が路頭に迷うことになるのも理解していた。
俺は気合を入れるように拳をグッと握って背筋を正すとまだ車内に残っているサンドイッチの数々を見て気合を入れた。
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俺、戸部 悠がこうやってキッチンカーでサンドイッチを移動販売することになったのは、数年前に体調を崩した父親の負担を少しでも軽くしようと考えに考えた結果だった。
女の子の憧れの職業、とまで言われたパン屋ではあったけれど、パン職人という括りで見てみると、朝の早い内から生地の仕込みをして成形、焼上げ、をパンの種類の数だけ延々と繰り返す超過酷な職業だ。
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