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対して俺は、大人しく落ち着いている、と言われる。 言い争いは好まないし、そんな体力も気力も沸かないから美月が言うように覇気はないのだろう。 それでも特に意識している訳ではなく、面白いテレビ番組には馬鹿笑いをするし、信号が赤続きだったら思わず舌打ちしてしまうぐらいには普通に怒る感性は持っていると思っている。 顔立ちは同じ遺伝子が入っているんだから似て然るべきだろうけど、周りに与える印象は大分違うようだ。 まぁ、この歳になっても他人と話すことはやっぱり苦手で、笑顔が引きつっているような男と弾けるような若さ溢れる女子学生を同じ土俵に上げるなってもんだ。 とはいえ、俺にとっても美月は可愛い可愛い妹で。大切に育ててきた掌中の珠だ。詰られても、叱られても、甘んじて受けるぐらい溺愛しているとは思っている。 「ん?どうしたの?」 小さかった美月の姿を思い出していたからか、何も言わずジッと見つめていたようで美月が訝し気に話しかける。 「あっ、ああ。別に何も。今日はそこそこ売れたぞ。」 「お兄ちゃん、そこは今日『も』でしょう。いつ『完売したぞ』って言ってくれるかこっちは毎日楽しみに待っているのに。」 美月は呆れたようにそう言うと、 「でもま、しょうがないか。お兄ちゃんだもんね。呼び込みはハードル高そうだし、お客さんに愛想良く出来てるのか心配。」 「ニコニコやってるって。」 「本当に?」 「本当だって。お前が言うようにとにかく笑顔、笑顔。スマイル、スマイルって心の中で唱え続けて俺の顔面の筋肉はひたすら苦行を強いられてたようだったぞ。」 大袈裟ねぇ、と美月はさらに呆れたような表情を乗せて俺に向き直る。 「本当、お兄ちゃんって接客向いてないよねぇ。性分だからしょうがないけどさ。」 そんな美月の言葉に思わず反論しようとした俺に、美月が被せるように話を続けた。
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