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「あ、そうそう。あのね、お兄ちゃん。ビックニュースよ!恵里衣が帰ってくるんだって!」
「え、えりぃ?」
「そう、恵里衣。覚えてるでしょ。外国に行っちゃった恵里衣よ。」
「え、えり……ぃ?。」
「んもうっ、お兄ちゃんって察しも悪いんだからっ。エリーよ、お兄ちゃん。エリー。私の大親友のエリー。日本に戻ってくるんだって。」
キラキラした瞳で俺にそう告げる美月の声に、俺はどこか因縁めいたものを感じていた。
エリー…。フルネームで言うと「南条恵里衣」。美月の昔からの友達で…………そして翔琉の妹だ。
偶然にも再会した翔琉との縁がまたこんな所で出てきた、と俺は思わず息をのんだ。
***
「うっ、日差しが眩しい…。」
昨夜は中々寝付けず、布団の中で何度も寝返りを打ってはまんじりともしない夜を過ごした。
明日も朝早くから生地の仕込みがある事は分かっていたけれど、目を閉じても脳裏に浮かぶのは昼間言葉を交わした翔琉の姿で。否応なしに引きずられる昔の思い出に目は冴えていくだけだった。
思い出の中の翔琉よりもずっと大人の男になっていた翔琉。
ほんの少し着崩したスーツ姿にドキッとなった。
同僚から呼ばれた声に応えるその仕草もいっぱしの社会人然としていて、まだまだ見習いの自分とは違って着実に成長している姿が伺えた。
「無駄にカッコよくなってたな…。ははっ…またモテてんだろうなぁ…。」
考えまいと思っても翔琉の事が頭に浮かぶ。
俺が翔琉と会ったのは企業が多数入っている大きなビルが連なるビジネス街だ。あの辺りに勤めているならそこそこ大きな会社だろう。
翔琉が首から掛けていた社員証までは確認できなかったけれど、きっとあいつの事だから優良企業に勤務しているに決まっている。
こういった事に俺の勘が外れたことはなく、今日もまたあの場所で店を開く事を思うと不安が押し寄せてくる。
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