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きっと今日も翔琉はやってくるだろう。
数年の空白なんて感じさせない距離感で俺に話しかけるだろう。
『ああ、懐かしい。
元気だったか。』
なんて言いながら、俺に笑いかけるだろう。
何の屈託もなく。
胸に何の懸念もなく。
『今までどうしてた。
話したい事がたくさんあるんだ。
今度飲もうぜ。』
そんな風に言って勝手に話を進めるんだ。
『おい、俺は良いなんて言ってない。』
なんてうそぶいて。そのくせ、内心嬉々としてあいつとの約束を受け入れるんだ。
昔から変わらないそんな関係を俺はどこか苦々しい思いと共に受け入れるだろう。
そうだ、昔も今も変わらないんだ……。
そこまで考えていたところで、枕元にある目覚まし時計がジリリと鳴った。
「やべっ。」
俺はひとまず翔琉との妄想に区切りをつけて布団から跳ね起きた。
**
「…‥‥妄想だと思ってたんだけどな。」
「ん?何か言ったか?」
「いやいや、何も言っていませんよお客さま。今日は何にしますか?」
昼、昨日と同じ場所で店を開いた俺の前に翔琉が姿を見せたのは、ランチタイムでパンを買い求める客の波が落ち着いた頃だった。
一人でやってきた翔琉は、昨日と同じように並べられた商品をグルリと眺め、俺に向かって話しかけた。
「元気そうだな。あ、いつ時間ある?飯食いに行こうぜ。」
俺が思ったよりももっと簡潔な言葉で俺を縛る。
「俺、明日は時間あるんだよな。悠は?ん、大丈夫そうだな。じゃ、明日にしようぜ。」
思わず頷いた俺に何も言わせず翔琉はサクサクと話を進める。
「時間は…18時…いや、19時にしてもらっていいか?」
「え、い、や。」
「定時上がりはちょっと厳しそうだからさ。な、悠、頼むよ。」
拝み倒すように目の前で手の平を合わせて俺の様子を伺う。
首をコテ、と傾けて俺を見るけど、それ可愛くなんてないからな。
ギャ、ギャップ萌えとか…ないからな。
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