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6
「おい、俺がそれやるよ。」
「え、良いよぅ。それ私の仕事だし。すぐ終わるもん。」
「そ、そっか。あ、じゃぁレジ袋、補充しておくか。」
「そんなん必要ないって。今じゃみんなエコバッグ持ち歩いてるし、そこまで需要ないんだもん。」
俺は店内をウロウロしながら美月に手伝いを申し出ては、ことごとく却下され今に至る。
翔琉からの連絡を待ってないフリをして。
何てことない顔をして。
それでもやっぱり気になって。
気付くと携帯の画面を見てしまう俺の姿にもちろん職人の父親は良い顔をせず。
これじゃいけない、と携帯を手に取れない場所に置いてきたはずなのに。
また気付くと携帯がある場所をぼんやりと眺めて、いつの間にか画面を覗いて何か連絡が届いていないか確認してしまっている。
「ちょっとお兄ちゃんどうしたのよ。いつも腑抜けてるけど今日は輪をかけて腑抜けよ。邪魔よ、邪魔。」
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないか。美月は酷いな。」
「酷くないわよ。だって今日はお昼帰ってきてからずっと可笑しいもん。ぼんやりしてたかと思うと急にやる気出して声あげて接客したりさ。普段あーんなに小さな声で挨拶するお兄ちゃんからは考えられないもん。」
実の妹の言葉はまるで容赦がない。
自分でも不味いと思っているのに、ずけずけと俺の不味い所を指摘する。
「もうっ。普段だってイマイチ身が入ってないのに、今日のお兄ちゃんじゃ全然戦力になんないよ。今日は私、早めに上がる予定なのに大丈夫かなぁ。」
「え?お前、今日何か用事があったのか?」
俺の言葉に更に呆れた顔をされる。どうやら事前に予定は伝えられていたらしい。全く記憶にない俺は引きつった笑いを返した。
「言ったでしょ。友達とご飯食べてくるって。」
「そうだっけ?」
「そうだっけ、って…。もうっ、お兄ちゃんもしかしてエリーが帰ってくるって話も覚えてない?」
「ん?いやいや、それは覚えてるよ。」
その兄には早々に再会してしまっている、なんて美月には言えない。
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