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俺はと言えば、時折虚ろな目で虚空を見つめる妹の姿に母親が妹までも連れて行ってしまいそうで怖くてしょうがなかった。 自分なりに妹の力になりたいと思ってはいたが、当時俺は高校1年で、新しい生活と人間関係にあっぷあっぷしている時で思ったよりも妹に寄り添ってやれなかった。 そんな俺たちの救世主になってくれたのは近所に住んでいた沙織さんという女性だった。うちの店のパンを食べて一変にファンになったとかで母親が生きている時から贔屓にしてくれていたお客さんだ。母より二つ、三つ年下だと言っていたことも仲良くなったキッカケなのかも知れない。見た目は沙織さんの方がずっと若く見えたけれど。 彼女はご主人が外国人で、ずっと海外で暮らしていたそうだが、ご主人が日本で仕事をすることになり子ども達を連れて日本へ戻ってきたらしい。 妹は母親が亡くなった当初こそ危ない状態ではあったけれど、元が明るく快活な性格だったこともあり、徐々に元の状態に戻っていった。沙織さんの娘さんが妹とちょうど同じ歳だったこともあり、ちょっとした事にも妹を誘ってくれたことも大きかったようだ。 口下手な俺や父親は沙織さんには頭が上がらず、本当にお世話になったと思う。 休日になると沙織さんはご主人と一緒に店にやってきて、父はその度にお礼を言っていた。渋めのイケオジな沙織さんのご主人は流暢な日本語を話し、俺との朴訥な会話にも笑みを浮かべて楽しんでくれた。 時折娘さんも加わって妹を誘って出かけて行ったり。あの時沙織さん一家と知り合いだったことは俺たち家族にとって本当にラッキーな事だったのだと思う。
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