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おつりも無いのはありがたい。
俺は手早くビニール袋にあいつが買い上げたコロッケパンと揚げパンを入れて視線を合わせないようにして袋を差し出した。
「こちらこそ。で、『悠』だよね?」
やっぱり空耳じゃなかった。
差し出したビニール袋ごと俺の手を握り、そうにこやかに笑いかけてくるこの男は諦めの悪い男でもあった。
***
男の名は南条 翔琉と言う。
高校の時の同級生だ。
当時あっぷあっぷしていた俺の高校生活は翔琉のせいだとも、翔琉がいたからだとも言える。
翔琉は帰国子女で15歳で日本の学校に編入してきた。当時はまだひょろっとした長身と白い歯を全面に押し出す笑い方が日本人にもウケると信じていた少々変わった男だった。
性格は周りと協調するよりは周りを巻き込んで自分の思う通りにしがちな陽キャで、地味めな俺との接点などほぼ無かったに等しい。
そんな俺がどうして翔琉と知り合いだったのかと言うと、驚いた事に俺の家族を救ってくれた救世主、沙織さんの息子だったからだ。
いやぁ、初めて聞いた時は驚いた。
あの、クラスでも人一倍注目される求心力のあるイケメンが沙織さんの子どもだとは。
それでも切れ長の目元とか、不意に真剣な表情になる横顔とか。
何となく見た事あるな、という既視感を感じていたのが、沙織さんの息子と聞いて何となく腑に落ちた事を思い出す。
遺伝情報はどうなってるのか、翔琉はハーフであるはずが見た目は日本人要素が強かった。顔立ちだけ見ると父親が外国人だとは思えない。少々色素の薄い瞳と髪の色、そして近すぎる人との距離感だけが日本人”じゃない”感をだしていた。
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