18人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章 ゼロから始まるフラダンス部
中学三年生の夏───
私、海凪奈瑠美は、生まれて初めての感情を抱いた。
フラガールズ甲子園。それが私に感動を与えたからだ。
ステージに立つ選手は、それぞれのチームの個性を表す衣装を着ている。
衣装の色は様々で植物の緑、海や湖の青、炎のような赤。それらは自然との共存と言う意味でもあるのだろうか。
振り付けもチームごとに違っており、その動きは一つの物語になっていた。
何より私の心を占めたのは選手達の笑顔。それは宝石のように輝いていた。
「凄い……こんな大会があるんだ?」
演技を終えたチームへ贈られる拍手の中、小さな呟きが漏れる。
胸がドキドキする……。
これが憧れって感情なのかしら?
中学では陸上部で、そこそこの成績だった。この文化交流館に来るまでは高校でも陸上をやろうと思っていた。
でも、今この時から気持ちはフラダンスに傾いていたのだ。
きっとこの舞台までの日々は厳しい練習の繰り返しだったに違いない。私には想像もつかない程の。
それを乗り越え、ここまで来たのだろう。
個人競技の陸上とは違う、勝利を仲間と分かち合える感動を味わえるかも知れない。
「──瑠美ってば、聞いてんの?」
「え?あ、ゴメン。感動して余韻に浸ってた」
閉会の挨拶が終わってすぐ。隣の席から腕がつつかれ我に返る。
つついてきたのは同じ中学でこれまた同じクラスの親友、大嶋優香里だ。
彼女はボーイッシュで良く男子と間違われる。一緒に歩くと彼氏だと思われるほどイケメンな女子なのだ。おそらく感動のあまり惚けたであろう顔の私に大きく頷いて見せる。
「それはハゲ同。ってか余韻長くない?そんなに感動したの?」
「うん……あのさ、私……高校生になったらフラダンス部に入ろうと思うんだ」
「マジで?てっきり高校でも陸上やるんだと思ってたのに」
「本気だよ。ずっと陸上一筋だったのに、自分でも驚いてる」
呆れたかな?陸上をやめてフラダンス部に入りたいなんて。
でも──優香里の反応は違っていた。
「そっか。頑張りなよ?奈瑠美が陸上より他の事を選ぶなんて余程の事だもんね。進学する高校は違うけど私は応援してるから」
「優香里……ありがとう」
温もりが私の両手を包む。まるで恋人のやり取りだ。
深い意味は無いけど、私の頬がちょっと熱くなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!