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雨はさらに激しさを増していた。
しばらく進むと、男は妙なことに気が付いた。一台の車も通らないのだ。まわりもひらけてきて、一軒の家も見当たらなかった。あるのはまばらに生えている大きな椰子の木だけである。
「なんか、おかしいですね」
誰に言うともなく、男はそう言った。
「そう?」
女性はそっけなく答える。
「だって、こんなに走ってるのに一台もすれ違わない。家だって、まったく見当たらないですし」
「ここは開拓地ですからねえ」
老人の言葉に、男は口をつぐむ。
確かにそうかもしれないと思った。
よくよく見れば街灯もない辺鄙な場所だ。ここに住んでる人がいたとしたら、よほどの変人だろう。
「まあ雨のせいでよく見えないだけかもしれませんがね」
「ああ、なるほど」
「動物が飛び出してくるかもしれませんから、気をつけてくださいね。くれぐれも……」
「はい」
男はそう言って押し黙った。
老人の言葉に、なにか異様なものを感じたからだ。
ルームミラーに映る老人の顔は、どこか死人のようだった。
「………」
男はそれ以上の会話は求めなかった。
そして、沈黙が続いていった。
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