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雨の降る深夜のことだ。
男はLAに住む自分の娘に会うため車を走らせていた。久々にもらった長い休暇は、単身赴任中の彼にとって願ってもないことだった。
「娘と会ったらどこにでかけよう」
男の頭の中はそのことでいっぱいだった。
降りしきる雨の中、道路は彼の走る車しかなかった。
しばらく進むと、前方に若い女性が親指を立てて道の脇に立っていた。どうやらヒッチハイクのようだ。男は雨も降ってることもあり、女性の前に車を止めた。
「どちらまで?」
「LAまで乗せていってくれないかしら?」
ブロンドの髪、白いブラウスをきたその女性は静かに言った。
男はどこかで聞いたことのある声だなと思ったが深く考えないようにした。
「乗りなよ」
「ありがとう」
女性は男の車に乗り込んだ。
女性は車に乗ってから一言も口を開かなかった。
無言の車内。
気まずい空気が流れた。
しばらくしてこの沈黙に耐えられなくなった男が口を開いた。
「じつは私、会社から長い休暇をいただきましてね。娘に会いに行くんですよ。娘は今LAにいるんです」
「そう」
「あなたは? なんのためにLAに?」
女性は答えなかった。
「ああ、別に答えなくていいですよ。こんな夜中にヒッチハイクをしてるぐらいですから何かワケありのようですし」
男が言うと女性は静かに言った。
「LAに住む……娘に会いに行くんです」
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