第一章・不倫と疑われて。

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第一章・不倫と疑われて。

 私は大学を卒業して創立八十年なる世界でも大手のおもちゃ会社。『新堂スター・コーポレーション』に就職して二年目になる。  秘書課で一年働き、そして憧れの社長専属秘書にまでなった。秘書は子供からの夢で本来なら天職になるはず……だった。ただ一つの問題を除いては。 「社長。この書類に捺印を頂きたいのですが」 「押してやってもいいが。その代わり、この書類に君のサインと判子を押してくれ」 「……無理です」  押せる訳ないでしょう。だって、それ婚姻届じゃない⁉  というか、毎度毎度何で持ってきているのよ? そんな物を。しかも何故? と言わんばかりに社長は不思議そうに首を傾げてくる。  何故も何も社長……あなた既婚者でしょーが⁉ 私は心の中で何度もそうツッコんだか分からない。なのに何故か毎日のように私に言い寄って口説いてくる。 「法律的にも無理ですから。そんなことより早く捺印を下さい!」  いつも、こんなやり取りを繰り返していた。問題の原因は、この人だ。  新堂秀一(しんどうしゅういち)。三十六歳。祖父の代から引き継ぎ、この新堂スター・コーポレーションを世界有数のおもちゃ会社まで成長させたカリスマ社長。  頭が切れて、かなりのやり手。その上に黒髪で、切れ長の目。鼻筋が通っていて端正な顔立ちをしていた。背も高くてモデルのようなスタイル。まさにハイスペックのような完璧で会社の女子からも絶大な人気がある。  私だって初め見た時は理想通りの人で一目惚れをしたぐらいだ。だけど彼には重大な欠点があった。それは彼の左薬指に光る結婚指輪だ。すでに妻子が居る既婚者。  例え結ばれようが、それは世間では不倫と扱われてしまう。私は奥さんと揉めるのも、そのせいで慰謝料や苦労して大学まで行かせてくれた両親に申し訳なくて諦めるしかなかった。  なのに、この社長と言う男はそんなのお構い無し。毎日、こうやってセクハラ紛いのアプローチをしては私を困らせていた。 「まったく、だからいつになっても独身なんだぞ? もう少し可愛くだな」 「社長……それセクハラですよ?」 「セクハラとは何だ? これもピュアな愛だろ」
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