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運動会
奈美は運動会が嫌いだ。
組体操とか、学校全体でする大玉送りとか、クラス対抗のリレー競技とか、そういうのは大丈夫。ちゃんと溶け込めるし、ワクワクする。
それなのに、なぜ『かけっこ』という種目は全学年にあるのだろう。
奈美はとにかく足が遅い。
奈美の学校は身長の順で走らせる。
奈美は4月生まれだし、背も高いのでいつも一番最後の組で4人で走る。
1年生の時からいつもほぼ同じメンバーだ。
奈美以外の3人は学年別のリレーの選手もやっている。とても足が速い。
そんな組の中にいれられた奈美は毎年大分離されてビリになる。
前にいる子を追いかける。離される。でも追いかける。みんなゴールする。
誰もいなくなったけれど、いない誰かを追いかける。
ようやく奈美もゴールする。
そんな5年間が続いた。
6年生の運動会はお天気が悪かった。曇っていて今にも雨が降りそうだった。
普段は入場と退場も、子供たちの可愛い姿が見えるので親は退場ゲートの近くまで来て子供と話したりする。
でも、6年生の時は
『お天気が悪いので、雨が降る前に急いで競技を勧めます。児童の皆さんは前の競技が終ったら退場と一緒に入場してすぐに次の競技を始められるようにしましょう。』
と、朝、校長先生からお話があった。
協議はどんどんと進み、いよいよ小学校最後のかけっこの時間だ。
奈美は1年生から一緒の4人でかけっこの位置に着いた。
「よーい、ドン」
いきなりみんな前に出る。奈美は追いかける。大分離された。その時。
あろうことか、次の順番の4年生のかけっこを奈美がゴールする前に4年生の先生が始めてしまったのだ。
奈美はまだトラックを走っている。奈美は恐怖を覚えた。
ゴールする前に4年生に抜かされたらどうしよう。
4年生は前を走る奈美を追いかける。
奈美は初めて後ろから追いかけられる恐さを知った。
奈美はもう誰の事も追いかけていない。逃げる。逃げる。
やっとゴールをしたら6年生はもう誰もいなくてゴールの先生も驚いたような顔をして、
「あら、ごめんね。まだ走っていたのね。」
と奈美に言った。
先生方はプログラムを追いかけすぎて、離れて走っていた奈美を見落としたのだ。
奈美の母親は大層怒っていた。
「いくら遅いからって、別の競技を始めるなんて。」
奈美は哀しかった。
「そんなに私って足が遅いの?」
いつも追いかける側が下級生に追いかけられたのも怖くて奈美の心には深い傷が残った。
中学校からは別の小学校からも子供が集まるので、奈美よりも足の遅い子もいたし、学校側もタイム別に走らせるようになったので奈美もたまにはビリじゃない時もあったが、かけっこは一生好きになれないだろうと思った。
【了】
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