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「あ、あのさ……、名前聞いてなかった」
後ろから掛けられた声に振り返る。
「槙原です。槙原美織」
「そ。槙原美織ちゃん、その…シッポみたいな……」
「え? シッポ?」
「えっと、そうそう、ポニーテールだ! 先っぽから水、滴ってる。ちゃんと拭いとかないと風邪ひくよ」
美織は後ろで結んだ髪の先を手で触ってみる。確かに絞れそうなほどの雨水を含んでいた。
ポニーテールが思い付かずに、シッポだなんて……。
照れくさそうに笑って、すぐに背中を向け廊下を走って行く拓己の後ろ姿を、美織は見送る。
「こらーっ! 幸坂! 走るのは部活の時にしろ!」
東階段前の廊下の方から、教師の声が聞こえた。あれは多分男子バスケ部顧問の先生だ。やたら声が大きい。
「すみませーん!」
「あ? 遅刻か?! 急げーっ! ダッシュだ!」
「どっちなんだよ……」
そんな拓己の呟きが、階段と壁に反響して聞こえ、軽く階段を駆け上がって行く足音と重なる。
美織は苦笑しながら、反対側の廊下から教室へと急いだ。
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