恋に落ちた瞬間

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恋に落ちた瞬間

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ボールが床で跳ねる重い音。 彼は、自分の前に立ちはだかったディフェンスを(かわ)し、ドリブルをしながら走る。まるで流れる空気を切り裂いているみたいだ。 標的(ターゲット)を見上げる視線が、鋭く一点に定まる。 そして、床を蹴る音がして彼の身体がしなるように空中に舞うと、ボールがゴールネットに吸い込まれ、そして床に叩きつけられるように落ちた。 それはまるでスローモーションのように、美織の目の前で映像となり、周りもほんの一瞬、水を打ったように静かになった。  湧き上がるチームメイトの野太い歓声と、それを掻き消すような女子生徒達の黄色い歓声。 真剣な表情だった彼は、目元と口元を少し緩めた。 鋭い感じに見えた目が、目尻が下がって途端に雰囲気が柔らかくなる。 彼は短く息を吐き、うなじとそれを隠すほどの髪の間に左手を入れ、そこに空気を送り込むように無造作に揺らす。 そしてすぐに真顔に戻り、また走り始めた。 高校に入学して1週間、美織は、中学からの友人、神尾(かみお) 梨絵(りえ)に引っ張られ、体育館にバスケットボール部の部活見学に来ていた。 「男子バスケ部にイケメンがいるって、中学の時の先輩に聞いたの。早くっ! 行くよ!」 中学からの延長でバスケット部への入部を考えていた美織は、梨絵も部活仲間だったので、その為の見学だと思っていた。 まさかそんな理由だったとは。 そして女子部ではなく、男子部の見学? 苦笑しながら、ついて行った体育館の中で、いきなり魔法にかけられた。
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