20人が本棚に入れています
本棚に追加
恋に落ちた瞬間
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ボールが床で跳ねる重い音。
彼は、自分の前に立ちはだかったディフェンスを躱し、ドリブルをしながら走る。まるで流れる空気を切り裂いているみたいだ。
標的を見上げる視線が、鋭く一点に定まる。
そして、床を蹴る音がして彼の身体がしなるように空中に舞うと、ボールがゴールネットに吸い込まれ、そして床に叩きつけられるように落ちた。
それはまるでスローモーションのように、美織の目の前で映像となり、周りもほんの一瞬、水を打ったように静かになった。
湧き上がるチームメイトの野太い歓声と、それを掻き消すような女子生徒達の黄色い歓声。
真剣な表情だった彼は、目元と口元を少し緩めた。
鋭い感じに見えた目が、目尻が下がって途端に雰囲気が柔らかくなる。
彼は短く息を吐き、うなじとそれを隠すほどの髪の間に左手を入れ、そこに空気を送り込むように無造作に揺らす。
そしてすぐに真顔に戻り、また走り始めた。
高校に入学して1週間、美織は、中学からの友人、神尾 梨絵に引っ張られ、体育館にバスケットボール部の部活見学に来ていた。
「男子バスケ部にイケメンがいるって、中学の時の先輩に聞いたの。早くっ! 行くよ!」
中学からの延長でバスケット部への入部を考えていた美織は、梨絵も部活仲間だったので、その為の見学だと思っていた。
まさかそんな理由だったとは。
そして女子部ではなく、男子部の見学?
苦笑しながら、ついて行った体育館の中で、いきなり魔法にかけられた。
最初のコメントを投稿しよう!