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再び走り始めた拓己につられて走り出した美織の鼻先に、冷たい粒が落ちて来て、それは徐々に数を増していく。
「あ〜……降って来ちゃった〜」
美織は持っていた傘のネームバンドのボタンを外す。
薄めの青に小さな白い水玉模様の傘。
ちょっと子どもっぽいデザインではあるが、どんより曇った雨の日でも、この傘の下に居ると少しは空が明るく見えた。
傘を持ち上げ、空に向けて開く。
その時、すぐ後ろで甲高く大きな急ブレーキ音が聞こえ、驚いた美織が振り向く間もなく、ガードレール越しの真横を自転車が通り過ぎた。
「あっぶねーな……」
自転車の男性が、吐き捨てるように小さく文句を言って、通り過ぎる。
自転車に乗った男性の肩と、美織の傘を持つ腕が接触し、弾みで手から離れた傘が、風に煽られ空へと舞い上がり、車道の上へ飛んだ。
「ご、めんなさいっ!!」
自分がいきなり傘を開いたから、自転車の男性の進路を妨害したのだ。
美織は慌ててその背中に声を掛けたが、その人は振り返りもせず行ってしまった。
その直後、宙を舞った傘は、走る車の斜め前方に落ち、ガードレールとの間に挟まれ、潰れて、その後続車にも踏まれて無残に砕けた。
「大丈夫?!」
呆然としている美織に、車道の反対側の歩道から声が掛けられた。
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