雨の朝

4/6
前へ
/30ページ
次へ
車道の信号が赤になり車の流れが止まるのを見計らい、美織は地面に這いつくばるようにしてガードレールの下から手を伸ばすと、無残な姿になった傘を拾い上げた。 そして、立ち上がって体の向きを変えると目の前に拓己がいたので、美織は驚いて声を呑み込む。 美織が折れた傘を拾っている間、彼は身を屈めるようにして自分の傘を差し掛けてくれていたのだ。 「じゃ、行こっか。一応、俺が傘差すから、隣走ってくれたら、少しは濡れなくて済むかも」 拓己がニッと笑い、走り出す。 「あの……ありがとうございます」 背の高い彼の背中にお礼を言って、必死について走る。 「もっと寄って。濡れるから」 そうは言われても、心臓がうるさくてそんなに近くには寄れない。 傘がだんだん美織の方に傾いて来ている。走りながら拓己の左肩を見ると、黒の学ランの肩が、濡れて光っていた。 それに、時々隣を見ながら、走るスピードを緩めてくれてるのも……。 申し訳ないと思いながらも、そんな気遣いが美織にはたまらなく嬉しかった。 雨粒が、走る二人の頬に、肩に、足元に、じゃれつくように落ちる。 いつもなら気分をどんよりさせる雨も、元気にアスファルトを跳ねる様が愛おしくさえ感じた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加