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雨に濡れながら必死に走った二人の努力も虚しく、校門を入ったところで始業のチャイムが鳴った。
校舎の玄関に滑り込むと、息を切らしながら、自然と目が合った。
「残念……。折角頑張って走ったのに間に合わなかったね。しかも見事にビショ濡れだし。
ごめん、俺あんま雨よけにならなかったね」
「そんな事ないです! すみません。先輩一人ならきっと間に合ってたし、そんなに濡れなかったのに」
拓己の濡れた前髪から滴る水滴を見てそう言った美織に、気を遣わせまいと思ったのか、彼は前髪を掻き上げ、それを誤魔化すように笑った。
普段は額を隠している前髪。眉尻の上がった凛々しい眉に、思わずときめいてしまう。
「全然、大丈夫。
でも、君、根性あるね。どこか運動部に入って……」
そこまで言って、拓己はハッとしたように美織の顔をマジマジと見る。
「あ、女子バスケ部?!」
「はい、新入部員です」
「そっか~。俺、男子バスケ部で……」
「知ってます。幸坂拓己先輩」
「うん、そう。そっか……。じゃあ、また部活でね」
「はい、今日は本当にすみませんでした。ありがとうございました」
「別に俺、何にもしてないし。じゃ、俺、こっちの階段だから。君は?」
「私は7組だから、あっちです」
東階段を指差す拓己に、美織は反対側を指差すと、彼は微笑んで頷いて背を向ける。
美織は拓己に頭を下げると廊下を歩き出した。
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