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秋空
パレットの上、青と白の絵の具を、水を含ませた筆で、慎重に少しずつ混ぜていく。
混ざり合った色が溶けて、美織の口元が綻ぶ。
そして、少し緊張しながら真っ白な画用紙に筆を滑らせた。
…青空。……うん、いい色。
小学生の図画工作の時間に、それまでで一番満足した色で塗れた青空を、槙原 美織は思い出していた。
そして、今の空の色と重ね合わせながら、公園へと歩いて行く。
朝は雨だったのに、午後から太陽が顔を覗かせ、青い空に伸びる銀杏の葉たちを黄金色に照らしている。
まだ雨粒を乗せている葉から、それは小さなビー玉が転がるように煌めきながら落ちて、すぐに地面に吸い込まれた。
公園の敷地を、ぐるりと囲む銀杏の木。公園の中に入ると楓の木もある。
秋晴れの空に赤と黄色のコントラストが、目と脳にビタミン剤のように染み込んで、美織は大きく息を吸い込んだ。
この公園のすぐ西側の道路を挟んだ場所にある高校。
体育館や部室棟では、まだガヤガヤと人の声が聞こえる。
今日は日曜日で学校は休みだけど、他校の男子バスケットボール部が練習試合に来ていた。
女子バスケット部に所属する1年生の美織も、女子部員達と一緒に先程まで体育館で応援をしていた。
そして今、男子バスケット部で2年生の、幸坂 拓己を待つために、この公園に来た。
まだ陽は高い。
そろそろ冬の足音がする11月。
陽当たりの良いベンチを見つけ、美織は座って、顔を上げて目を閉じる。
瞼の向こうは明るい。暖かな陽射しに、時折冷たい風が混ざり、美織の頬を撫でていった。
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