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ふたりの王子様
チェキ会のあと、俺たちは寄り道せず帰ることにした。
なんとなく、どこにも行きたくない気持ちだった。佳奈もそうだと言うので、早々に都会の街とお別れして帰って来た。
佳奈の家の前で、「じゃ」と別れかけた時、奥から佳奈のお母さんが何か言ってる声がした。
「あ、ねえ! お母さんが上がってもらってって。ケーキ買ってあるんだって」
俺は頷いて、「お邪魔します」と言ったが、ぼうっとしていた。
大樹くんにすっかり心を奪われてしまって、魂をチェキ会場であるCDショップに置いてきたみたいで。
佳奈も、電車に乗っている間ずっと無言だった。多分、俺と同じようにまだ夢見心地で、チェキ会のことを反芻してたに違いない。
「翔ちゃん、お疲れ様。ケーキと紅茶をどうぞ」
佳奈のお母さんが、俺のために3個もケーキを用意してくれていた。いつもなら軽く食べられるのだが、食欲が湧いてこない。俺はさっきから、ひたすら紅茶を飲んでいる。
佳奈が苺ショートをつつきながら、「夢みたいだったね。カッコよかったあ」と呟いた瞬間、俺は現実に引き戻された。
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