【怪談】生えるつま先

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 事故や病気で腕や脚を失った人が,なくなった腕や脚に痛みや痒みを感じることがある。腕を失ったのに存在しない指先の爪の痛みを感じたり,あるはずのない脚をぶつけたかのように痛みを感じる。  医学的にはまだ解明されていない「幻肢痛」と呼ばれるこの症状は,脳が誤った伝達をするからだと考えられている。  そんな脚を失ったある男の話なのだが,男は仕事の帰り道にバイクで事故を起こし右脚の太ももから下を断脚することになった。  事故後すぐに大学病院に搬送され,すでに潰れて原型を留めていなかった右脚の太ももから下を緊急手術により切除した。その際,残った太ももの中に大量のガラスの破片と砂利,そして細かい金属片が埋め込まれていたため,断脚後に時間をおいて二度三度と手術を行う必要があった。  断脚は大きな手術ではあったが,比較的簡単な手技でもあり命にかかわることもなく手術は問題なく行われた。しかし事故による圧迫のせいか,それとも細いガラスなどの破片が傷口に残っているからなのか,術後も股関節から下が腫れ上がり熱を発したまま断脚面がいつまで経っても炎症したままになっていた。 「先生,なくなった脚がズキズキ痛むんだけど,鎮痛薬の量を増やしてもらえませんか?」 「そうですね。しばらくは様子をみながら量を増やしていきましょう。炎症がおさまれば痛みもひいてくると思うんですが」  医者の言葉に安心しながらもどんなに鎮痛薬を増やしても痛みはおさまらず,腫れもひかずに痛みで眠れない日々を過ごした。 「先生,なくなったはずの脚なんですが,つま先が痛痒く感じるんです。なんていうか,つま先を思いっきり伸ばしたいのに伸ばせないというか」    術後の容態が改善しないこともあり,入院日数は増えていったが保険もあり男は気楽に考えていた。このまましばらく入院して,動けるようになったらリハビリをしようと前向きな気持ちもあった。  しかしいつまで経っても術後経過はよくならず,ある日医者の提案で精密検査を行うことになった。  血液検査,尿検査,MRI検査とCT検査を行い,最後にX線検査をしたところ,白黒のX線検査画像をみた医者が小さく呟いた。 「どういうことだ? 太ももの肉の中でガラスが繊維状になって砂利と金属片をつないで小さな赤ちゃんの足みたいな形になっている? 骨の切り口からつま先が再生しているような? そもそもこんなに大量の異物が残ってるはずはないのに…‥」  男もX線検査画像をみせてもらったが,そこには太ももの付け根の骨の断面から小さな子供の足ような形をした真っ白な影が写っていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加