君にふたたび出会うまで

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 彼が好きだった女の子をわたしは想像する。彼に似合いそうな、静かで穏やかで可愛い女の子。違う星に住む生き物とも仲良くなれるような。誰とでも分けへだてなく接して、呪いなんかかけない女の子。彼の孤独に簡単に触れられて、それをまるごと癒せる女の子。  ふたりはこの息苦しく過酷な世の中を、学校という狭い世界のなかを、お互いを慈しみあいながら幸せに生きていく予定だったのだ。  でも、彼女はもう世界のどこにもいない。  彼を照らした光は跡形もなくなって、残された想いだけが消えずに漂っている。  勝手に握った手は振りほどかれなかった。  そんなことしかできない不器用な気持ちが胸に渦まいていた。 「片親だったんだ、彼女」  秘密を明けわたすように彼がつぶやいた。 「僕は父子だけど。普通のサラリーマン。境遇がちょっと似てて」  わたしも同じだ、となぜか言えなかった。  話の腰を折るのははばかられた。静かに語り始めた彼の邪魔をしたくなかった。彼が過去を話したくなったなら、それはきっといいことのはずだから。 「それで、仲良くなったの?」 「そう、いつのまにか」  昔を懐かしむような横顔は、同い年なのに老成して見えた。そんな顔にも惹かれそうになる。 「学校のなかではうまく話せなくて、屋上にいるときだけお互いのことを打ちあけるようになった。家のこととか、クラスの嫌がらせとか。たまに死にたくなることとか」  最後の一言がするどく胸を打つ。  大きく揺さぶったまま、遠いどこかへわたしを連れてゆく。 「彼女は、死にたがってた」  その感情にはわたしにも覚えがある。いや、覚えがあるなんて曖昧なものじゃない。それはいつも影みたいにわたしに貼りついている。一生拭えない宿命みたいなものだ。わたしは彼女に共感して、猛烈に嫉妬した。死んでからもこんなふうに想ってもらえることに。  学校のチャイムが鳴り響く。そろそろ行かなきゃ、とわたしは思う。彼と話すのはいつも授業中の一時間だけだった。 「明日も会える?」とわたしは訊く。  わたしもここでしか彼と話すことはできなかった。 「だいじょうぶ」と彼が言って、瞳がゆっくり細められる。そのかすかに消えそうな笑顔を見るたび胸がいっぱいになる。それがなぜなのか、本当の理由をわたしはまだ知らずにいる。  
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