電車を止めろ

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 朝の駅で彼は電車が発車するのを待っていた。車窓から外を眺めた。黄色い帽子をかぶった子供たちが、大急ぎでやってくるのが見えた。ドアが閉じた。電車が動き出した。  彼は先頭車両へ歩き出した。次第に足早になった。 「電車を止めろ!」彼は叫んだ。  乗客たちは驚いた。 「電車を止めろ!」彼は叫んだ。  乗客たちは顔を見合わせた。車掌が走ってきた。 「電車を止めろ!」彼は叫んだ。 「お客さん、電車は止められませんよ!」  車掌は彼を羽交い締めにした。彼は車掌を引きずりながら前進した。 「電車を止めろ!」 「お兄さん、無茶を言うなよ」おじいさんがいった。「無茶をいうなって」  車掌は彼に引きずられながら叫んだ。 「電車は止められません!」 「電車を止めろ!」  部活動のグループの男の子たちが、彼のまねをしてケタケタ笑った。 「電車を止めろ!」彼は叫んだ。「電車を止めろ!」  無茶なものか。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加