第2話

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 彼女は目を見開き、本当に驚いた顔をした。彼女が驚いたことに俺も驚く。 「え、付き合うって、え。私と? 」 「え、わかってるんじゃないの、俺が仁科さんに気があるってこと。だって、『わかってるだろうけど』って言ったら頷いたよね」  『うん』って頷いたよな?って心の中で繰り返す。通じてなかった……ってことか? 「私と宮沢くんは同じ気持ちなんだと思っていて、こんな正規の告白だなんて夢にも思わなかった」 「同じ気持ち……じゃないの……え、仁科さんは俺とどうなりたかったってこと? 」  理解が追いつかなくて問い詰める。仁科さんは二三度目を泳がせた後、小さな声で言った。 「今日、一度きりのお誘いなら断ろうと思っていたんだけど」 「お!? 一度……」 「うん」  上目遣いの瞳には焦りと涙が滲んでいて、 「や、そんなわけないだろう! 」  気づけば大きな声を出していた。 「ごめん、そうだよね」 「はー、びっくりした。そりゃそうだろ」  動揺しすぎて喉がカラカラだ。一気に酒をあおると、一息つく。いや、待てよ?バッと音がするほど仁科さんに顔を向ける。彼女はまだ赤い顔で羞恥に震えていた。 「いや、仁科さんの思う『同じ気持ち』って何。仁科さん、俺に何を求めてんの」  結局、俺の気持ちを受け入れてはくれるんだろうか。でも、俺たちは今“同じ気持ち”ではなかったことくらい、俺にだってわかる。じゃあ、仁科さんの気持ちを聞こうじゃないか。その前に、二杯目の酒を頼んでおいた。  ドク、ドク、鼓動が早くなる。彼女はきゅっと噛んでいた唇を離し、覚悟を決めたように俺に身体を向けた。「引かないでね」って前置きする。 「私が今欲しいのは……セフレなの」  え、待って。  酒を一杯飲んだくらいで耳はおかしくなるのだろうか。頭が真っ白になる、ということを初めて経験した……かもしれない。
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