報われぬ恋

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 彼は死んだ蛇がよく見るととても美しいことに気づき、その皮を剥いで袋を作った。その袋にトマトを入れた。すると、その熟したトマトはたちまち発酵し、それはそれはかぐわしく、甘く、美味しいお酒にかわっていった。彼は驚いた。蛇はもしかしたら天の使いだったのかもしれないと、皮を剥いだ蛇の死骸を畑の片隅に埋め、弔った。  そこから一本の葡萄の木が生えてきた。  とても不思議な木で、するするとすごい速さで成長し、花が咲き、実をつけ、たちまち赤く色づいていったのだった。  彼がその葡萄を蛇の皮で作った袋に入れると、思った通り、それはとても上質なワインになった。  彼は、ふと、ここで一緒に畑仕事をしていた娘のことを思い出していた。ある日突然姿を見せなくなった娘を。日の光につやつやと輝く熟したトマトとたわわに実った葡萄の実、それらを眺め、ワインを飲んでいると、まるで彼女がすぐそこにいるように思えた。  彼はその酒におぼれ、畑でひとり、酩酊した。  家にも帰らず、妻や子どもたちを顧みることもなくなった。  やがて彼は衰弱し、赤々と実るトマトと葡萄の木の根元で死んだ。  彼に殺され、皮を剥がれ、肉体を埋められて、魂になった彼女は、ようやく自分の恋が実ったのだとうっとりと微笑んだ。
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