報われぬ恋

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 恋がしたい、と彼女は思っていた。  燃えるような恋を。いつか。  だけど彼女の住む村には老人しかいなかった。彼女の両親も年老いて、だから家の仕事をするために彼女をこの村に引き留めている。若い人はみんな街に出て行ってしまった。  わたしだっていつか。  しかし、両親は許さない。おまえが出て行ったらわたしたちはどうやって生きていったらいいの、と泣いてすがり、ときに脅した。  恋がしたい、彼女は思った。街にでることができなくても、せめて、恋がしたい。  ながく強く願い続けていた彼女は、ある夜、夢を見た。 「葡萄の木を育てなさい。隣村との境にある渓谷に小さな棚地がある。そこを耕し、苗を植えなさい。赤い実をつけたとき、あなたに素敵な恋が訪れるでしょう」  歌うような美しい声だった。声だけ、姿はない、頭の上のほう、きらきらとした春の日差しのような光ととともに降り注いだ、声ですらなかったかもしれない。ただ、意味だけだったのかもしれない。だけど、彼女はそれを信じた。それはあまりにも素敵な夢だったから。まるで恋をした時のようなときめきを感じるような夢だったから。
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