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その面影はどこにもなかった。
改札口を抜けて見た景色は、私の記憶の欠片すら落ちていない、知らないような街だった。
かつて何度も利用した駅は新幹線の開通とともにリニューアルされてしまっていた。
バスロータリーに「千石駅前」行きのバスがなければ、私はここが自分の地元だなんて思えなかったかもしれない。
思えばだいぶ長い間、帰省していなかったんだな、そんなことを思いながら私はそのバスに乗った。
高校生のときは何度も使った路線のバスに、二十代になった私が再び乗る。なんとなく不思議な感覚だった。
もしかしたら知り合いとかいたりするのかな、そう思って見回した車内には残念ながら誰も知っている人はいなかった。まぁそこまで人数の少ない町じゃないよね、そんなことを思いながら私は一番奥の窓際の席に座った。
「富士見経由、千石駅前行き、間もなく発車します」
自動音声が車内に流れ、その後、バスの扉が閉まり、小刻みに揺れながらバスは動き出した。
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