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待て待て、そんなことってあるのかな?
高校を卒業して、名古屋の大学に進んでから、ほとんど帰省することはなかった。東京で就職してからなんて、従姉妹の結婚式でしか帰ってきたことはなかった。
それでも、実家への道を忘れてしまう、そんなことがあるんだろうか? 私は自分に問いかけながら
「……そんなことあるってことだよね」
誰に伝えるでもない独り言が行き交う車の音に消えていった。
大丈夫、落ち着け、私。
忘れてしまったなんて情けないことだけど、父か母に迎えにきてもらえばいい、そんな程度のことだ。
しかし、私はカバンをまさぐりながら、自分のスマホがないことに気づく。上着のポケットに手を突っ込んでみても何も手に触れることはなかった。いつからないんだろう?
駅を出るときに改札でスマホを使ったはずだから、駅までは確実に持っていたはずだ。それから、どうしたっけ、バスではずっと景色を見ていたから――、
「結衣夏ー?」
ふいに名前を呼ばれた。驚いて、声の方向を見ると、通りの向こうで手を振る女性が立っていた。ショートボブの女性、その顔を見た瞬間、私の記憶の扉が開く。
堀田奈緒。小学校、中学校時代の同級生だった。
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