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私は「なんかごめんね」と言って助手席に乗り込んだ。それ自体に奈緒は何も言わず、
「荷物後ろに置いていいよ」
と言った。カバンを後部座席に置かせてもらった。
スムーズに車は駐車場から出ていく。
小学校のとき自転車に乗ることも苦労してた奈緒が普通に運転をしていることがなんだか不思議だった。
信号で右に曲がると、対向車とすれ違うことがギリギリになりそうな細い道へと車は入っていく。
「あ、なんか見覚えあるかも」
「やっぱこの辺だよね」
古い石材店が見えた。この道をランドセルの私が歩いていたような気がする。
「私もこの道を通るのは久しぶりかも」
奈緒が言った。
「……奈緒はずっとこっちだっけ?」
「いやー、大学だけ横浜だったけど、いまは富山で暮らしてるよ」
「そうなんだ。何のお仕事してるの?」
「あー、小学校の先生」
「わかるかも、なんか似合うかも。イメージに合う」
「そうー? 苦労ばっかりだよー」
クラスの中心的存在で、悪ふざけする男子を窘め、先生が相手でも間違っていれば発言できる、奈緒はそんな子だった。先生向きかもしれない。
「結衣夏は?」
「私はシステムエンジニア。東京で働いている」
「あ、結衣夏、ゲーム好きだったもんね」
「私も楽ではないけどねー」
「睡眠時間少ないっていうよね。SE」
「マジでそうなんだよ……」
家がわからないという事態にも関わらず、奈緒と私は中学生の頃のようにおしゃべりを続けた。
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