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「あ……そこの角を右に曲がるような気がする」 「OK]  この道を右折してその後に左に曲がれば……そんな記憶が思うい浮かんできた。これで実家に帰ることができる。そう思って、次の左を曲がったときだった。 「あれ……」  まだ集合住宅の道は続いている記憶があった。しかし、そこには家など並んでいなかった。  目の前に現れたのはガードレール、そしてその向こうを流れる川だった。 「ここ、川だよ。昔っから」  奈緒の言うとおり「昔っから」川があったならば、私の記憶が誤っているのだろうか。たしかに川を埋め立てて家を建てていたはずはない。でもここの通りだったような気がするのに。 「おーい」  奈緒が私を呼んでいるのはわかる。でも何を答えるべきかわからない。苦笑しかできない。  家に帰る道がわからない、これはこんなにも心を落ち着かせないものなのか。額にうっすらと汗が浮かんでいることが分かった。 「こんなことってあるのかな……。スマホもないし、誰とも連絡取れない」 「うーん。とりあえず、私の連絡先は渡そうか?」  その質問に返事をするより早く奈緒はバッグからメモ帳を取り出し、さらさらと電話番号を書いてくれた。 「ありがと。今度なにか奢るよ」 「期待しとく。その前に結衣夏の帰り道だよ」 「……だね」  目の前を流れる川を見ていても何も解決はしない。私は大きくため息をついた。
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