勝つために必要なこと

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勝つために必要なこと

 瑞樹はメニューを開いて、しげしげと眺めていた。 「焼き魚以外にも、とんかつ定職とか刺身もあるんだね」 「そうだな。  定食屋といったところか。  アルコールを出さないところも気に入った」  ニヤリと笑って、文月は真剣な目つきをした。 「どうして」 「定食屋の仁義だよ」  厨房の方をまっすぐに見つめ、背筋を伸ばした。 「飲食店は、アルコールを出して儲けてるようなもんだ。  だが、料理に自信があるのだろうな。  直球で勝負し続ける覚悟を持っている。  きっと仕入れにも秘密があるはずだ」 「売り上げが落ちてるんだから、アルコールも検討してみたらどうかしら」  大きくため息をついて、頭を振った。  厨房の方を指さして、 「ここは大事なところだ。  いいかい。  職人が信念を捨てたら死んだも同然だ。  コンサルティングは、職人魂に寄り添ったものでなくてはならない」 「でも、商品の幅を広げれば売り上げアップできる気がするけど」  左手の上に顎を乗せ、テーブルに肘をつく。  右手の人差し指でコツコツと木製の天板を叩き始めた。 「ねえ、もしかして苛立ってる」 「いや、それじゃあこうしよう。  まずは瑞樹が提案してみろ。  頃合いをみて俺が修正するから」  瑞樹の口角が上がり、ニヤリとした。 「実は私、自信があるのよ。  今回は出し抜いてみせるんだから」  暖簾の下からさっきのおやっさんが顔を覗かせて、ニコリと笑った。 「すまんね。  仕込みが終わったから、お話しましょう」
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