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※ 三日後
私は五時に目を覚ました。寝室のベッドから体を起こして廊下に出て、リビングに向かった。リビングの黒い本革ソファに座ってテレビの電源を点けた。テレビは朝の情報番組を映し出した。ニュースのコーナーで、最近起きた事件について、紺のスーツを着た男性アナウンサーが原稿を読み上げていた。
「今朝新しく入って来たニュースです」
男性アナウンサーはいつも通りのカクカクした声で事件について伝える。
「神奈川県横浜市港北区の交番に、母親の生首を抱えた中学生の少年が出頭しました」
初めて聞く事件だった。
「被害者は飲食店勤務のアヤさん、四十四歳」
免許証の写真らしき女性の顔がテレビ画面にドアップで映し出された。シミシワ毛穴まみれで、濁った黒目、膨らんだ鼻。イボガエルみたいな女の顔。既視感がある。
「あっ」
三日前にズームで相談を受けた女性だ。
「少年は自分が母親を殺したと自白しております。犯行の動機は、今まで自分に散々暴力を振って来た母親が急に、あなたの味方だ、と言って来て腹が立った。自分が学校で虐められていることを紙に残して恥を晒されそうで怖くなった。と、供述しているようです」
テレビの電源を切った。アヤさんが息子さんに殺された。私はその場面を想像した。
──どうして。どうして、言う通りにしたのにい。
と、アヤさんは蒼黒くなった唇をパタパタ震わせ、倒れたまま嘆いたのだろうか。
そっか、私は間違えたアドバイスをしていたかもしれない。
顔を洗いに洗面台へ向かった。今日の朝もベランダに出て、コーヒーを飲もう。
食器棚にはティファニーのマグカップが二つ並んでいる。私は茶渋の着いた自分が使う方のマグカップを手に取る。もう一つのマグカップには、絶対汚れを着けたくない。今日から強くそう思うようになった。なぜだろうか。
ベランダに出た。いつも通りの国道の様子を見下ろしながら、プラスチックの椅子に腰かける。
スマホを持ち、息子にメールを送ることにした。さっきまでそんなこと考えていなかったのに、急に送りたくなった。
「もう八月になりましたね。今年のお盆はこちらに来ることはできますか。お父さんのお墓参りもしたいので、是非来て下さい」
息子は大手銀行に勤めて、奥さんと娘の三人で暮らしている。多忙という理由で家を出てから一度も来てくれない。せっかく大事に育てたのに、何て親不孝者だろか。
「今年こそ顔を見たいな」
ドリッパーで淹れた珈琲を飲んで、ホッと一息吐いた。今日も一件、仕事が入っているので、楽しみだ。
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