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「ポーンちゃーん。インプラント打ってみるー?そこのなら練習していーよー」
恨み辛み妬み嫉みからの行動だったが、一年も続ければ流石に知り合いだって出来る。
動物実験棟には研究に使う歯科機材が一通り揃っていて、歯科材料学、歯周病学、虫歯、被せ物等々、オレは様々な先生と知り合いになり、色々触らせて貰えるようになっていた。研究に『使わなかった部位』の解剖をしてみたり、歯の神経とってみたり、皮を捲って歯石をとったりと、刺激的な毎日。
…………正直ぶっちぎりでアウトの行為である。特に生命を扱う研究の場合、厳格な倫理審査を受け、認可される以外の行為は絶対に許されない。もっといえばオレみたいな部外者が居る事がそもそもダメ。この物語は全て作者の虚偽妄言でありますので悪しからずな訳で、
「打っちゃいなよー。なんなら一回反対側までドリルぶち抜いてみな?患者さんでその感触したら訴訟だよー?あははははっ」
これに関してはレポートを残す事すら憚られる。アウトなのだ、誰がどうみても。
それでも諸先生方がオレを構ってくれる理由なんて単純なもんで、歯医者ってのは『歯に興味がある歯学生』が好きなのだ。お陰様で成績も良好。
相談できる人がいる。教えてくれる人がいる。絶対にシェアされないオレだけの学び場。
だったのに、
「コンちゃんもどーぞー」
「おっ、おっす。ありがとうございます」
コイツホント嫌い。
一年以上かけて作ったこの場所は、ある日突然やってきたキツネに掻っ攫われた。
いやオレも良くなかったんだ。
「おぅタヌキ。テメェ犬の死体で歯ぁ削る練習してんだって?私絶対ムリだわ、超おっかねぇ」
ムッカつくだろ?頭湧いてるだろ?ぶん殴っていい発言だろ?
「ぶっつけ本番で生きた人間の歯ぁ削んのか?超おっかねぇのはテメェのオツムだこのカス」
あんまりにも頭にきて、思わずちょろっと口から漏れてしまったのだ。
「……………ふん」
オレの嫌味に一体何を感じたのか、一ヶ月後にはオレの学び場で「コンちゃん」なんてあだ名で呼ばれるようになってた。これだから陽キャは始末に悪い。
が、しかし、だ。
「うあああ……ウサギさんごめんなさいごめんなさい。ホントすいませんありがとうございますごめんなさいありがとうごめんなさい…」
実家が大工だからか、技術というものを異常に信仰するこのヤンキーが、半ベソかきながら生命の尊さに深く感謝する様は心底小気味良かったし、
「いいっ!いいぞコンちゃん!それが正しい!そうじゃなきゃいけない!その気持ちが根っこだぞ!ウチの教室おいで!?オジサン全部世話しちゃう!」
よく分からんが先生にも刺さったみたいなのでヨシッ!
結局、動物科学サークルの顧問から「流石にもう庇えない」とまたも辞めさせられてしまったが、その時お世話になった先生達は、その後もなんやかんや可愛がってくれた。
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