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惨劇のあと
番頭の井口は、客の入浴も一段落ついたと考え、浴場に向かおうと思った矢先
ドスン、と言う物音を聞き、その音の方向目指して部屋を出た。
人形の間から灯りがもれているのが見え、駆けつけると
倒れている女性と、客の高木の姿があった。
高木のそばには、血がついたブロンズ像があり、当の本人は
放心状態で、こちらの問いかけにも明確に答えられない状態だった。
「高木さん、警察に来てもらいますけど、ここから動かないで下さいね」
井口はそう告げると、離れにいる女将に連絡を入れ、警察に通報した。
所轄の刑事、浪越は、寝入りばなを起こされた形ではあったが
事件が殺人という事もあり、取る物も取り敢えず現場に急行した。
ドクターによる検死が行われると同時に、鑑識も入り、容疑者の高木が連行されていく。
浪越は他の刑事と共に、各宿泊客に聞き込みを行っていったが、嶋村剛も
宇野徹も寝耳に水といった感じで、特に有力な情報は得られなかった。
二時間余りで、現場作業は終えられ、女将の配慮で
嶋村剛と宇野徹は、警察署近くのビジネスホテルへと宿を変えた。
早希の下にも刑事からの聞き込み依頼が入ったが、
すでに熟睡している俊之を起こすには忍びないと考え、一人で応対した。
早朝、ショックで寝込んでしまった女将の代わりに、番頭の井口が全てを取り仕切りやってくれる。
「この度は、信じられないような事件が起きまして。
お二人には何とお詫びしていいか…」
「いいえ、私達は当事者ではないので、どうか、気になさらずに。
それでは失礼いたします」
早希は取り敢えずそう言うと、すでに到着していたタクシーに乗り込む。
そして、車の中で狐につままれたような顔をしている俊之に、順を追って説明していく。
俊之は
「カッコ悪いよな、彼女が大変な状況になってたって言うのに、一人高いびきで寝てたなんてさ」
と身の置き所が無いような顔をする。
「それにしても、なぜ高木さんと嶋村さんの奥さんが同じ部屋にいたんだろう?」
「それは、今から解明されていくんじゃない?」
二人の間に何があったのかは知らないが、お菊人形を始めとした何体もの人形が、事件の有力な目撃者である事には違いない。
それとも、高木はお菊人形の妖気に惑わされたのだろうか?
いずれ、全て明らかになるだろう。
早希は、めぐみと親しい間柄になっていなかったせいか、割と冷静に事件を捉えていた。
だが、嶋村と宇野の気持ちを考えると、何ともやりきれなくなり、
落ち着いたら二人にコンタクトをとってみようと、田園風景を眺めつつぼんやり考えた。
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