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隣に並んだ真由ちゃんが、ためらいがちに口を開いた。
「今年も、友松センパイの誕生日も、バレンタインデーも、何もしないの?」
「しないしないしない、するわけないよ」
慌てて首を振った。ちらっと考えるだけで血の気が引いてしまう、そんな大それたこと。
「しないしないできない、私なんかにできること、なんにもないから。そもそも、私が勝手にセンパイを見つめているだけで、私はセンパイの視界に入ったことないし。存在すら知られてないよ」
「三年前からずっと応援してるのにね。視界に入らない場所からだもんね」
ストップ、と真由ちゃんが手のひらで私の頭をはさんで、首振り運動を止めてくれた。
「紗矢の気持ちもわかるんだけど。でも、センパイは、また先に卒業しちゃうじゃない?存在すら知られないままで、いいの?」
「いいよ」
それでいい。むしろその方がいい。
ベランダから身を乗り出して、手を伸ばしても届かない。せいいっぱい声を張り上げても、グラウンド脇の応援にかき消されてしまう。それがぴったりでちょうどの距離。私がセンパイへ、一方的に憧れてるだけなんだから。
「うわぁ」
ひょいと飛び抜けたセンパイの背中の先には――。憧れは募ってやまないから、せめてこの距離以上は離れずに、ずっとずっと、見つめていたい。
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