あなたの背中を追いかけた

2/9
前へ
/9ページ
次へ
隣に並んだ真由ちゃんが、ためらいがちに口を開いた。 「今年も、友松センパイの誕生日も、バレンタインデーも、何もしないの?」 「しないしないしない、するわけないよ」 慌てて首を振った。ちらっと考えるだけで血の気が引いてしまう、そんな大それたこと。 「しないしないできない、私なんかにできること、なんにもないから。そもそも、私が勝手にセンパイを見つめているだけで、私はセンパイの視界に入ったことないし。存在すら知られてないよ」 「三年前からずっと応援してるのにね。視界に入らない場所からだもんね」 ストップ、と真由ちゃんが手のひらで私の頭をはさんで、首振り運動を止めてくれた。 「紗矢の気持ちもわかるんだけど。でも、センパイは、また先に卒業しちゃうじゃない?存在すら知られないままで、いいの?」 「いいよ」 それでいい。むしろその方がいい。  ベランダから身を乗り出して、手を伸ばしても届かない。せいいっぱい声を張り上げても、グラウンド脇の応援にかき消されてしまう。それがぴったりでちょうどの距離。私がセンパイへ、一方的に憧れてるだけなんだから。 「うわぁ」 ひょいと飛び抜けたセンパイの背中の先には――。憧れは(つの)ってやまないから、せめてこの距離以上は離れずに、ずっとずっと、見つめていたい。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加