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グラウンドに転がる白黒のボールに、わっとユニホームが群がる。いち早く抜け出すのは、決まって同じ背番号。
中学生になったばかりの五月、校舎の二階のベランダから、真由ちゃんと二人でサッカー部の練習試合を見かけた。
群れから不意に飛び出して、運動音痴な私にしたら魔法のように、ボールを足でわがものに操りゴールへ駆け抜ける。
「すごい。すごーい!」
ぴょんぴょん跳びあがりながら、ほとんど一目で憧れた。
友松センパイは三年生。真由ちゃんのお姉さんが同じクラスにいたので、名前はすぐわかった。最高の偶然に泣いた。
「紗矢ってば、大げさだなぁ~」
「お姉さん、神」
本気で拝みたい~。
同じ中学にいられたのは一年だけだったけど、お姉さん経由で教えてもらったサッカー部の試合は会場が他校でも見に行った。センパイの進学先は偏差値いいとこだったけど、同じ高校に入れるよう勉強も頑張った。
「紗矢に付き合ってたから、私も受かっちゃった~」
「わ~い、真由ちゃん。高校も一緒だねっ」
さらには、同じ高校に進んで最高の偶然を更新してくれていたお姉さんのチカさんが、三年で再び友松センパイと同じクラスになったという。
「うわぁ、チカさま、神さま!」
「ハイハイ。また泣く~」
二年ぶりに、晴れて同じ学校の生徒としてサッカー部の試合を応援できる。待ち合わせた真由ちゃんは半分呆れていた。
「やっぱりベランダ行くの?」
「うん!」
だってね、いっちばんよく見えるもん。必ず一番に抜け出すセンパイの、背中。
「校舎入れないときはグラウンドの片隅からだし。応援するには遠すぎない?」
「だいじょぶ、ちゃんと見えるから。視力1.5だから。友松センパイの背中は見逃さないよ!」
二階の教室からベランダに出た。グラウンドでは、試合前のウォーミングアップが始まっている。何人駆け回っていても、まっさきにセンパイが目に飛びこんでくる。どうしてもにやけちゃうなあ。
「でもさぁ、紗矢」
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