0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「ねぇ、聞いてよ…!」
「ん…?何?」
いつものように眠たそうな眼で、彼はこっちを見た。私は構わずに、そんな彼に話しかける。
「最近、たまに変な夢を見るんだよねー」
「変な夢…?一体、どんな夢なの…?」
彼はピクッと眉を上げて、食い付いてきた。
「私がね、何とも悍ましい化け物になっちゃうの!」
「ば、化け物に…?」
彼は、ゴクリッと唾を飲んで、険しい顔になった。
「うん…!身長は三メートルくらい?腕は四本あるし、ツノも生えてるし、牙もグワーってなってるし、爪も凄いの。なんか鬼みたいな感じかな…?」
彼はこの手の話が弱いらしく、真っ青な顔になっていた。
「そ、それで…?」
「それでねー、『やましい事があるだろー!』って言いながら、アナタを追いかけ回るの。で、結局はアナタは、逃げきれずに捕まって、私がアナタを締め殺そうとするんだけど、アナタが泣きながら、『もう、浮気はしません…!許してください…!』って謝るから、私は許しちゃうんだよねー。夢は、いつもここで終わるの。ねー⁈変な夢でしょー⁈」
彼は、ビクビクしながら言った。
「ほ、本当、変な夢だね…。でも、いくら夢の中だからと言って、本当に俺のことを、殺さないでくれよ…⁈」
「当たり前でしょ…!…。でも、もし本当に浮気なんかしたら、夢の中なんかじゃなく、本当に化けてやるからね〜⁈」
彼女は、そう言って嬉しそうに笑っている。俺も、『ハハハッ…』と笑い返しているが、心の底から恐怖していた。
何故なら、彼女が言っている事は、夢の出来事では無く、“俺が浮気(俺にその気がなくとも、異性と楽しそうに話しているだけでも)をした夜に起こる事”なのだから…。そう。彼女は、夢と思っているこの話は、紛れも無い“現実”の出来事なのだ。
彼女は俺に、ニコニコと嬉しそうに肩を寄せて言った。
「ねっ!ずっーと一緒に居ようね⁈」
「あぁ…。そうだね…」
もし、俺が彼女に『別れよう』などと切り出したら、一体俺は、どうなってしまうのだろうか…。終
最初のコメントを投稿しよう!