盛夏(リアル)

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盛夏(リアル)

「彗…くん?」 「そのとってつけたような、くん、は何?」 笑顔の彗に内心ホッとする ひどい別れ方をした女 まだ高校生だった彗を傷つけた女 そんな風に彗の記憶に残ってしまっていたとしても仕方ない 「どうしてここに?」 「それはこっちのセリフだよ」 「私は…まあ、環境を変えたくて、越してきたばかりなの、ここは緑も多いし、癒されそう」 「沙夜はマンションを出たんだね、ご両親は?」 「まだあのマンションにいるよ、そろそろ定年後の事を考えて、売るかどうか迷ってるみたい」 「え?売ったらどうするの?」 「施設に入ろうって事みたい、うち私一人っ子だし、介護の負担のこと考えてくれてるみたい 墓守の期待もできないから、なんか色々…ね」 「そうなんだ…」 「今すぐどうのって話じゃないけどね」 そう言うと沙夜は   「えと…彗はどうしてた?」 「俺はこの春に大学を卒業して、メーカー系SIerに就職した」 SIerは、システムの構築や導入と言ったシステム開発のすべてを請け負っている企業の事だそうで 業界の名称らしい Slerについて沙夜は、言葉は聞いたことがあったが、内容は詳しく知らなかった が、入社したという企業は、沙夜でも名前を知っている会社だった 「そっか…好きを仕事にしたんだね」 「いろいろラッキーもあって」 「ううん、彗の実力だよ、さすがだね」 「沙夜は?銀行?」 「うん、毎日バタバタ」 「へー、クールな沙夜がバタバタしてる姿を見てみたいね」 「見たって面白くないよ 彗は今日仕事?」 「いや」 聞けば、去年まではこのエリアにある高校のテニス部にコーチとして月に2、3回教えに来ていたそうで、いよいよ彗自身は就職してコーチ業は後輩にバトンタッチすることになったのだが、夏休み最初の部活動の日でもあり 「ちゃんとやれているか確認」 も兼ねて、たまたま来ていたらしい 「学校の部活だけど、強化クラブと言うわけでは無いから、そこまでハードじゃなかったよ 強いチームは教える方もかなりキツいだからね」 「彗がコーチじゃ女子高生にモテて大変だったんんじゃない?」 沙夜がクスリ笑いをすると 「まぁそれは色々、高校生なんてガキだし、 とんちんかんな子もいて、勉強になったよ」 「あら、彗は大人になったのね」
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