秘密の宝物

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 希望通りに、強く固く、閉じ込めるように抱きしめてくれる亮介の腕の中で、僕はこの温かさとこの腕の力を、死んでも忘れないように記憶する。まるであの頃のように。  そう……あの頃。僕は亮介のことを忘れないように、ずっとその大好きな声を耳に焼き付けていた。大好きな笑顔も、おいしい料理も全部覚えておこうと思ったけど、この声に勝るものはなくて、僕は必死にその声だけ……忘れないように、いつもいつもじっと耳を傾けて聞いていたんだ。  引き寄せられるようにキスを繰り返し、潤んだ瞳で僕を見つめる亮介の頬に手を添えた。 「箱の中……見せてあげる」  ベッドに二人腰かけ、小箱の蓋を開けた。  中に入っているストラップと、ソムリエナイフ。  亮介は目を細めてそれを見つめたが、すぐにそこにある写真に気付いた。 「これ……」  それは僕の誕生日に撮った写真。  今自分が着ているセーターだと気付いた亮介は、写真と、自分のセーターとを見比べ、一度だけ深く頭を垂れた。泣くのを必死に我慢したのは一目瞭然だったけど、亮介は必死に笑顔を作って僕を見た。 「そういうことかよ……。早く言えよ」  一瞬、何を早く言えば良かったのだろうと考えたけど、首を傾げる早く、亮介は写真を持ったまま両手を広げた。 「ほら……、甘えていいぞ」  亮介は……、ほらね、やっぱり卑怯だよ。僕の弱い部分……確実に突いてくるんだから。 「亮介……ぇ」  広げられた腕の中に倒れ込むように体を預け、僕はどれだけかぶりに本気で亮介に甘えることにした。もうこんなの……無理だ。カッコつけらんないよ。  時刻は二十時半。明日のことを考えても、日を越すまでには就寝したい。けど、僕は亮介にぴったりとくっついたまま、あの楽しかった誕生日と同じようにたくさん甘えた。 「ねぇ、キスして」 「ん」  ちゅっと軽いリップ音を立てて触れるだけのキスを寄越す亮介に、首を振る。 「違うよ。もっとちゃんとしたやつ」 「どんなの?」 「……意地悪言うなよ」  ふふっと笑い、亮介はキスをやり直してくれる。その頬に、腕に、首に、髪に、僕は手を這わせ、唇が離れても尚、ペタペタと体を触った。 「なに? 偽物だと思ってる?」 「時間が来たら消えたりしないよね?」 「うん。消えない。だって俺お前いないと息できないもん」  イケボで可愛いことを言われた。けど、渋い声がその子供みたいな言葉をえらく悩殺的なものへと昇格させているような気がした。……大好きな亮介の声。大好きな亮介の体温、腕の中。大好き。 「僕、亮介の笑顔が好き。笑って」 「むちゃくちゃだな」
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